吉例寶榮座<夏・七夕歌舞伎>ハラプロジェクト公演レポート

2018年7月8日(日)、農村舞台寶榮座協議会主催公演の第2回目が開催されました。昨年に引き続き、原智彦さん率いるハラプロによる<夏・七夕歌舞伎>を上演。

作品は筑前琵琶演奏による舞踊「網館」とスーパーコミック歌舞伎「勧進帳」の2本立て。気の早い台風が近づき、直前まで雨が心配されましたが当日は晴天。たくさん詰めかけて下さったお客様の熱気も相まって、会場は大賑わいとなりました。


1作品目の「網館」は、長唄(歌舞伎舞踊の伴奏音楽として発展)のひとつで、正式には「渡辺綱館之段」といいます。物語は羅生門で渡辺綱によって腕を切り落とされた鬼が綱の叔母に化けて綱の屋敷を訪れ、最後は腕を取り返すというもの。舞台上には羽織袴姿で片腕をそっと袖の奥にしまった叔母=鬼(原智彦)がいるばかりですが、綱とのやり取りは琵琶奏者の安井旭道の語りで表現されます。

通常は三味線で奏でられる旋律を筑前琵琶が担うことで鬼と綱の緊迫したやり取りを明確にし、情景とともに鬼の心情を表現する語りの巧みさが光ります。また、原智彦の所作事(歌舞伎でいう舞踊)も、鬼の心情がにじむ鬼気迫るものでした。腕を切り取られた恨みと怒りを懐にしまいながら、弱々しい老婆を演じて綱に近づく鬼。綱を油断させてチャンスと見るや、鬼の本性を現して腕を取り返してあっという間に掻き消えてしまいます。こうした迫力とスピード感が心地よく、悪者として描かれることの多い鬼が逆転一発、腕を取り返すという展開も小気味良いなと感じました。


2作品目は、ハラプロの十八番ともいうべき「勧進帳」。歌舞伎といえば勧進帳、勧進帳といえば歌舞伎というくらいに有名な作品かも知れません。通常は主君である源義経と武蔵坊弁慶の忠義、関守と弁慶との淀みない言葉のやり取りなどが見どころとなるようですが、スーパーコミック歌舞伎は、この限りでは終わらないのです。美男子と言われていた義経を美しい顔立ちの役者(磯和真帆)を配して麗しさを与え、工事現場の黄色いコーンのような上っぱりを来たヘルメット姿の番卒や、洗濯板の鎧に網タイツを履いた番卒(藤井朋子・渡辺泉)を配してポップでデタラメな感じを演出。

武蔵坊弁慶は、大げさに誇張された木槌や鉞(まさかり)・鍬(くわ)・なぜかエレキギターまで背負いこんだ入れ墨姿(今藤敦雄)で登場させます。舞台で上はこんなハチャメチャな登場人物たちが、やいのやいのと取っ組み合いをしながら物語を展開していくのですから楽しくて仕方ない。

また、ハラプロらしさといえば、弁慶が番卒たちを千切っては投げ、千切っては投げと倒していくシーン。弁慶が刀を振り落とすと斬られた番卒たちは首を衣装の中にひっこめ、作り物の首(布でつくった頭部)をポーン、ポーンと飛ばしていく。シュールでポップでロック、それが最高に気持ちいい・・・これこそ、スーパーでコミックなハラプロ歌舞伎なのかも知れません。

見終わると、サウナからあがったかのような爽快感に満たされますね(笑)。本当に楽しい作品でした。

 

(文責:Art&Theatre→Literacy・農村舞台寶榮座協議会 亀田恵子)