農村舞台寶榮座 第2回ワークショップレポート

2017年8月27日(日)、怒田沢集会所「青葉の館」にて、第2回となる「農村舞台寶榮座保存活用ワークショップ」が開催されました(第1回目は7月30日に行われた「改修」をテーマにしたワークショップ)。コーディネーターは地域人文化学研究所・寶榮座相談役幹事の天野博之さん、講師には地芝居ポータルサイト代表・真宗大谷派 長善寺住職の蒲池卓巳さんをお迎えしました。

全体構成は

 

(1)青木会長のご挨拶

(2)蒲池さんによる講演会

(3)協議という名の放談

 

という3部で構成。放談では、コメンテーターとして、とよた演劇アカデミーから石黒秀和さんも加わりました。


(1)青木会長あいさつ:参加者へのお礼と第2回ワークショップへの想い

 

(2)講演「地域と歩む農村舞台」蒲池卓巳さん:

はじめにご自身による自己紹介。大学時代に恩師から頂いたアドバイスから地芝居をリサーチするようになった経緯や、現在ではご自身も義太夫を演じるまでになったことをお話し頂きました。次に、日本全国のさまざまな地芝居(歌舞伎・人形芝居)や農村舞台の状況をご紹介頂きました。基礎知識として、農村舞台では主に2つの上演スタイル(買い芝居と地芝居)があること、農村舞台で演じられる地芝居には上演する立場と観客の立場が地続き(観客が役者になることもあるし、役者が観客になることもあるという相互に入れ替わる可能性を持った関係性)であることなども教えて頂きました。怒田沢の方によると、寶榮座では地芝居がメインだったそうです。「重の井子別れ」という演目でご自身が子役として出演したことや、隣の集落の芝居好きが寶榮座で芝居をやっていたことなど当時を振り返りながら話しておられましたが、お話しされているときの表情がとても楽しそうにみえましたよ。

 

日本のさまざまな場所にある農村舞台。現在では活用の方法にもいろいろなタイプがあるそうです。農村舞台での上演を楽しみながら地元料理に舌鼓を打つ楽しさを提供している四国・阿波の農村舞台、地域外の学生を受け入れて数日間の滞在フィールドワークに取り組む小豆島の農村舞台、舞台を実際に操作する保存会と作品を上演する保存会とが両輪で運営している上三原田の農村舞台、高校演劇の合宿・公演場所として舞台を提供することで地元の人との交流拠点となっている祢津東町の農村舞台、3年に一度竹を伐採してゼロから舞台を作り上げて上演する西塩子の農村舞台はボランティアを巻き込んでいるそうです。瀬戸内国際芸術祭の会場でもある中村農村舞台では地元主催の定期公演が開催される一方で芸術祭との連携もみられるとか。海外の方の観光誘致などにも積極的な東濃歌舞伎中津川保存会では、より多くの方に届くようにと“地芝居”という一般的な呼び方を“地歌舞伎”として発信しているとのこと。農村舞台といっても、そこにはさまざまな工夫と個性が見えてきます。

 

これらさまざまなタイプの農村舞台の事例をまとめると、農村舞台は従来の地芝居とセットで発信される地域が多い、他業種(これまでその地域と関わりのなかった人たちとの)共同創作はあるが、買い芝居は少ないというようなことがあげられるそうです。共通の課題は「過疎化」。過疎化といった課題をにらみつつ、寶榮座がどのような歩みを重ねていくのか、これが今回のワークショップのテーマにもなっていることでした。

 

(3)協議という名の放談:

放談では(2)の講演を踏まえて、寶榮座がどのように歩んでいけるかということを話しあいました。蒲池さんからは「農村舞台が生活の中にあること」「舞台と観客が地続き出るという本質を大切にすること」「つくる側だけでの人間ばかりでは活動は行き詰るので、必ず観客の視点を持った人や、両者を繋ぐ橋渡し役を入れること」「考えてばかりでは始まらない、先ずは行動を!」といったお話がありました。どれも勇気づけられる内容で、末席とはいえ、幹事の一員である私も思わず襟を正しつつも気持ちが高揚する言葉であふれていました。石黒さんからは、「最大1か月もの間、無償で制作場所を提供するスタイルは他にはない、表現者にとっては大変貴重な場になりえる」「普段使いの場所として活用する方向が寶榮座にはあっているように思う」「地域全体が1つの農村舞台」「青葉館から農村舞台までの道筋にある家や建物も非常に興味深い」というようなお話がありました。私はこうしたお話を伺い、都市部で暮らす人たち(自分も含め)の生活で失われたもの、それらが怒田沢には豊かに存在していることを想起しました。ここからの動きが、現代社会に求められる部分でもあり、寶榮座が果たせる役割の基本的な部分になると思われました。差別化という点では既に動いている「農村舞台アートプロジェクト」の存在がとても大きな要素になるということ。農村舞台アートプロジェクトは、豊田市内に80以上もある農村舞台の価値・活用にいちはやく注目したアートプロジェクトで、アート作品の展示とあわせて舞台作品の上演や演奏会を開催してきているものです。今回紹介された事例の中でも特異な位置を占めるように思われましたし、7月23日に開催されたハラプロジェクトの農村舞台寶榮座協議会発足記念公演は他ではあまり行われていない“買い芝居”にあたります。アートや買い芝居すら視野に入れた強かさ、それに加えて現代人が失いつつある日常(空気がおいしい、水がおいしい、目に映る景色の美しさ、時の流れの移ろい、人と人との素朴な交流など)をあわせて発信していくことが、寶榮座の個性になるのではないかと思いました。

 

2017年10月8日には、農村舞台アートプロジェクトが寶榮座にやって来ます。京都の舞踏家、今貂子さんを招いての舞台作品上演。初秋の怒田沢で秋の訪れを感じながら、洗練された舞台作品を愛でる…そんな贅沢な時間を味わいにいらっしゃって下さいね。協議会メンバー一同、怒田沢の自然とともに、みなさまのお越しを心からお待ちしております!

(文責:Art&Theatre→Literacy・農村舞台寶榮座協議会 亀田恵子)